いつも怪訝な眼差しで見つめられて、唾を吐かれていた少年の過去がどんなに悲惨なものだったとしても。
小さな手では抱えきれないほどのものをいつも抱えて、その上で私のことも抱きしめてくれて。
そうしてあげるべきは、そうしてあげたかったのは私なのに、幼いあなたはいつも赤ちゃんの私を守ってくれた。
「私にとって光だから……だから、だから…今も昔も変わらず大好きで、これは一生変わらないよ、なにがあっても…変わらない」
上手く伝わってるかな…。
これは決して慰めなんかじゃない。
すべての過去を知ったときに一番に真っ先に伝えたかった言葉。
目の前にある見開いた眼差しは、次第に優しいものへ変わってゆく。
「本当はずっと前に言いたかったけど…でも、……桜子ちゃんとキスしてて、言えなくて、」
「忘れろ。いいな、あれは記憶から抹消しろ」
「うん…。私の初めては“なぎ”で、那岐の初めても私っ」
ぎゅっと抱きついて、もう1度「大好き」と伝える。
ゆっくりうなずいた彼は泣きそうな声で「ありがとう」と、小さくつぶやいた。
「んっ…いおり、たまご…やき…っ、」
「あとで味わって食べる。今はお前が先だ」
誰もいない。
私たちしかいない場所。
それが屋敷にいるときとはまた違った緊張を作ってくれる。
「…アイス買っときゃ良かったな」
「うん。明日帰りに買ってくる!一緒に食べようねっ」
「あぁ」
そんなドキドキな半同棲がスタートした。