「や、やっぱり無理しなくていいよっ!私がぜんぶ食べるから…!」
「してねえよ。うまい、…一生俺だけのために作れ」
「こんなの誰でも作れちゃうしっ、作れて当たり前だしっ、それに───…え?」
防音である部屋はこういうときに厄介で。
本当に静かだ。
周りの音がぜんぜん聞こえてこない。
それに明る過ぎない証明がどことなくムードを出してくれちゃっているから。
「…卵焼きしか作れませんけど、私」
「毎日バニラアイスでもいいっつったろ俺は。余裕だ」
「一生って、いうのはつまり……っ、」
そっと頬に手が重ねられた。
少しひんやりしていて、それでもあったかい。
「お前が高校を卒業したら……ここで一緒に暮らさないか」
差し出された1つのカードキー。
それは彼がこのマンションの玄関を開けたときのものと色違いだった。
「天鬼の屋敷もお前の実家だから、もちろん今は今まで通りでいい。
ただ、お前と2人になれる場所が欲しいんだよ俺も」
「す、好きに使っていいってこと…?」
「あぁ、いつでも来ていい。俺がいないときでも」
こんな広すぎる家、ひとりじゃ余計に寂しいよ。
一緒じゃないと駄目だよ。
「俺もこっちにいるときはできるだけここに帰ってくる。…2人でいたいからな」
それって同居…?同棲…?
ここに帰ってきて、絃織が帰ってくるのをご飯作って待って。
おかえりって、言ってあげる。
そんな未来を想像したら幸せでしかなかった。



