光を掴んだその先に。─After story─





そして卵の賞味期限は明日まで。



「…宅配でも頼むか」


「ううん、私が作るっ!」


「おまえ作れるのか?」



絶対そう言われると思った…。

私がこう言うと、必ずみんなそう聞いてくるもん。

施設のときだってそうだったなぁ。



「卵焼きだけは得意なんですよーだっ」



これは本当だった。


施設にいた頃、確か夏休みだっけ。

子供たちがお腹空いたーっていうから、保母さんに内緒でいつも作ってあげていたものが卵焼きだ。


卵はいつも冷蔵庫にたくさんあって、減ったとしても気づかないように騙せちゃうから。



「絃織は座っててっ!お米も炊くね」



炊飯器もある。

調理器具も揃えられているけど、やっぱりどれも新品のように使われていなかった。


ここはもしかすると、彼が何も考えず1人になりたいときのためだけに使われていた場所なのかもしれない。



「火、気をつけて使えよ」


「うん」


「包丁もな、手切るなよ」


「うん」


「あと───」


「もう!わかってるよっ!そんな子供じゃないってば!!」



いいからソファー行ってて!と、広々とした部屋に私の声が響いて消えた。

だとしても一向に座る気配はなく、私が作っているところを傍でじっと見つめているだけ。


……やりづらい。

すっごく作りづらい。



「あっ、見てよ絃織っ!ふたつ入ってたよ!」



パカッと割った1つの卵から、まさか2つの黄身が出てきてくれるなんて。



「お得だねっ!ひとつで2倍の美味しさが追加されちゃったじゃんっ!」



なーんて言う私へと、くつくつ笑い声が聞こえてくる。