その間に眠った赤子を再び抱き上げて、布団に寝かせた。

「離れても泣かないところは俺に似たんだな」と男は柔らかく微笑んでから、もう1度女の隣へと。



「明日からまた出張かぁ…」


「今回は最短2日で帰る」


「また勝手に投げ出してきちゃだめだよ?陽太なんか“誰が尻拭いすると思ってるの”って、毎回怒ってるんだから」


「…俺は幹部に仕事を与えてやってるだけだ。それに愛想の良いあいつには適職だろ」



「陽太もオーストラリアと往き来してて大変なのに」なんて、他の男の話ばかりをする相変わらずな肩へと腕を回して引き寄せる。


ふわっと昔と変わらない温もりを感じ、そして女もまた大好きな香水の匂いを吸い込んだ。



「それに私も未亡人に間違えられて口説かれちゃった。
“那岐さん、俺は子連れでもぜんぜん平気です!”って」


「…俺の女に手出すとは良い度胸してんじゃねえか。どこのどいつだ、潰す」


「そう思うなら無事に…早く帰ってきて。でも投げ出しちゃだめ。
そうじゃなかったら他の人に取られちゃうからねっ」



頬を擦り寄せて、可愛らしいおねだりをしてくる。


子供を生んで母親になったとしても変わらない少女の瞳。

それはずっとずっと変わらない。
ずっとずっと昔からあるもの。



「だったら未亡人じゃねえってのを思い知らせるためにも、」


「ん…っ」



男はちゅっと優しい口付けを落とし、小ぶりな耳へ唇を寄せる。

ふっと笑い、甘く甘くとろけるような声で。



「もうひとり作るか?」


「…!」


「もし次が女の子だったら、昔の俺とお前が見れるしな。───…絃」



そこには確かにあった。

ここには、いつまでもあった。


あの優しくて温かくて切なくて、キラキラとした日々が。



新たな光となって繋がれてゆく───。