トントンと背中を叩くようにあやしてやれば、途端に静けさが広がって。



「さすが俺。これはもう経験値だな」


「むぅ…、私だって前よりは上手になったもん」



まだ20歳前後の女はぷくっと頬を膨らませ、唇を尖らせる。

しかしその寝顔を見つめればすぐに柔らかい母親のものに変わって。


かわいい───と、かつての誰かに似た面影を映し出す赤子の頬を撫でた。



「私もこんな感じだった…?」


「あぁ、そっくりだ」


「でも目と鼻はパパ似だよ。髪は私だけど…」


「性格はお前に似てくれるといいんだがな」



静かになった赤ん坊をそっと母親の腕へと戻してやる。

顔にかかった髪を耳にかけてやれば、変わらない笑顔ではにかんだ妻。



「私はパパに似て欲しいなぁ。あ、昔のだよ?いまの乱暴なのじゃなくてね?」


「悪かったな今は乱暴で」


「ごめんごめん冗談だってば。…パパみたいに強くて優しくて格好よくて、ちょっとヘタレな子になるんだよ~」


「…悪かったなヘタレで」



ふにっと、頬を軽く引っ張る。



「いひゃい」



言葉とは裏腹に痛がってない反応を満足気に見つめる男の左手薬指には、イエローゴールドをした指輪。

腕には紫色のブレスレット。


女の左手薬指にも同じものが通されていた。



「それに今は“パパ”じゃねえ」


「…絃織、」



へへっと照れたように笑って、小さく名前を呼んでくれる頬は仄かに赤い。