『久しぶりね絃織ちゃん』


『雅美姉さん!』


『あら、なにか嬉しいことでもあったの?』



歩けるようになった絃は、その嬉しさにちょこちょこと色んなところへ行ってしまおうとする。

目が届く範囲であれば好きにさせてあげたいが、ここは普通と比べたら平和的な場所ではないから。


絃織もちょうど小学校は夏休み。

1日中隣にいられるからこそ、昼間の明るい時間に歩かせて、他はおんぶ紐や抱っこ紐で一緒に行動していた。


そんな今日は抱っこの気分で。



『絃が歩けるようになったんだ』


『まぁ!それはすごいわね!』


『うん。だからいつも歩きたがっちゃって大変だけど…』



今はスヤスヤと眠っている。

昼間たくさん動いたため、疲れてしまったのだろう。


大好きな少年の腕の中、穏やかな顔で心地良さそうにしていた。



『ふふ、絃織ちゃんも立派なお兄ちゃんね』


『…お兄ちゃん、なんかじゃないよ』


『え…?』


『ううん、絃を寝かせてくる』



やっぱりそう言われると違和感がある。

“お兄ちゃん”と見られるのは当たり前のことだ。

自分は養子に引き取られて、ここで暮らして、こうして毎日兄妹のように一緒にいるのだから。


でも……ちがう。



『だって兄妹ってことは、…俺は絃とはずっと一緒にいられないってことだ』



いれたとしてもそれは兄妹として、だ。

そうじゃない。
この光は、他の誰かに渡しちゃならないんだ。


俺だけの光じゃなければ嫌だ。