ほら、こういうときに限ってからかってくるんだもん。

優しいのか乱暴なのか。
甘いのか冷たいのか、全然わからない。



「はーー、やべえ。俺の嫁最高にかわいい」



まだお嫁さんじゃない。

だから婚約破棄だって場合によっちゃあできないことも無いんだから。


それでもそんなものができるはずもないと分かっている。

くつくつ笑って、真っ赤な私の頬に触れた。



「俺もしょっちゅう夢でお前のこと見てたよ」


「絃織も…?」


「あぁ。覚めたときに地獄なんだがな」



それは私も同じ。
夢かぁ…って、かなり落ち込んでた。

でも今は寝ても覚めても目の前にはちゃんといる。



「これどんな構造だよ。破っていいか」


「ちょっ、だめに決まってる…!!」


「なら着たままでいいか。…それはそれでエロいな」


「んな…っ!ひゃぁっ!」



少し硬い実技用のマット。
跳び箱にモップ、ボールが入ったカゴ。

薄暗い場所に窓から射し込む微かな光と生徒たちの声。


そんなものすら気にならないくらい、目の前には大好きな人でいっぱい。



「ご主人様って言わねえのか」


「言うわけないよ…っ!」


「なら言わせるまで。なぁ、メイドさん」



俺だけの───と、耳元で囁かれてはノックダウン。

婚約者としての高校生活は始まってしまって、そのあとは甘い甘い新婚生活…?



「…お前なに声抑えてんだよ。あぁ、俺の力量が足りねえってことか」


「っ…、」


「ほら出せ。欲しいって顔してるぞ、絃」



こんなにも俺様なんだから、きっとこの先だって色んな壁が立ち塞がることだ。

だけど、私たちが誰にも切れない絃─いと─で繋がっていれば。


ぜったい大丈夫───。