「んっ、まって絃織…!私戻らなくちゃなの…っ」


「戻らなくていい」



駄目だ、代わりに適当に答えてくれちゃってるくらい聞こうとしてない。

甘い甘いキスの雨が降ってきて、身を捩るようにくねらせてみても。


目の前に格好いい人いる……。

ミスコンだっけ、あと少しで行われるやつ。

それぜったい優勝できちゃうよ、この人。


───そんなとき。



『あー…ん”ん”っ、あーー!!3年A組天城 絃!!今すぐ教室に戻ってこーい!!』



校内放送が鳴った。

確実に大魔王である優花の声だ、間違いない。



『でなければお前の中学時代の作文を今から読み上げる!!えーっと、…“私の夢”』



なーにやってくれてんのあいつ…!!!

全校生徒+aという大人数が集まる文化祭で…!!


そもそもなんでそんなの持ってんの!?!?



「そんなのだめーーー…!!優花っ!最悪…!!絃織も離してってばぁ…っ!!」


「嫌だ」



嫌だ…!?嫌だってなに!?

こんなときに限って意地悪に笑ってる。


どうやらその作文を聞こうとしているらしい。

私の身体はガッチリとホールドされており、身動きはとれそうにない。



『“私にはずっと夢に出てくる人がいます。今日は、そんな夢の話です”』



終わってる…。
本当に読み上げる気だ、あの大魔王は。

それは私が中学2年生くらいのときに書いた記憶があって。



「うわぁぁぁぁ聞かないで…!!お願い聞かない───んんっ…!」



暴れる私の口を甘い唇で塞いでしまえば、彼はゆっくり耳で聞ける。

長いようで短い作文が響く校内、そんなひとつの倉庫にて。