「───どうぞお帰りください。夜道は暗いのでお気を付けて転んでください」
ステージの上、スーツ姿の那岐 絃織の隣に立ってマイクを奪う。
そしてにっこり笑ってやる。
そうすれば、戻ろうとしていた男たちの足は止まった。
「生意気な娘だ。あれが一人娘か?随分と教育がなってないように見える」
「那岐と関わればこうなるのか」
「うちとの契約が切れたらかなり痛手なんじゃないのか?口を慎みたまえ」
うるさいんだよハゲ。
このハーーーゲ。
お父さんの「絃、」と呼ぶ声が聞こえるけど、止まれそうになかったし、止まるつもりもない。
だって絃織が私を見つめていたから。
そんなの初めてだった。
「助けて」って顔をしたのだ、一瞬。
「そうかもしれませんが、まったく問題ないです。さっさとお帰りくださいさようなら」
こんなの痛手でも何でもない。
今まで彼がどれだけ私を守ってきてくれたか、助けてきてくれたか。
この人といれば怖いものなんか何もないから。
「それはそれは、でしたらあの話もなかったことに」
そして私の前に立った男は、株式会社ヨククルの社長だった。
嫌な笑みを浮かべて、こうなることを最初から分かっていたかのように。
その男が言う“あの話”とは、そういうことだ。
決まっていた就職はすべて水の泡となったらしい。
「さすがに那岐を庇護するような娘は会社にとってマイナスにしかならないからね」
「…那岐は、そんなに駄目ですか?この人があなたに何かしたんですか大橋さん」
「那岐 慎二とは昔に少し知り合いでね。まさか息子が生きていたとは驚きだが、あの殺人鬼はもう人間じゃないよ」
この男が何を言ってるか、ぜんぜん理解ができない。



