その1人の声は、波のように広がって。
デザートを口にしていた私は思わずフォークの動きが止まった。
「那岐…?那岐って、おいおいまさか那岐組やら言わんよな…?」
それは佐伯組の者からだった。
那岐組、銃殺事件、惨殺、殺人鬼───このパーティー会場には似合わない言葉ばかりが次々に飛び交ってゆく。
そして先ほどはあんなにも絃織に楽しげに声をかけていた女たちまでもが、恐怖と軽蔑の眼差しに変わって。
「静かにしないか。今はそんなもの関係ないだろう」
千春さんは声を落として放つ。
「関係あらへんわけあるか。あの男がどれだけの事件を犯した思てるんや」
「まさか天鬼にそないなヤツがおったとは」
そして天鬼と佐伯を繋ぐ企業側の人も次々に疑いの眼差しを向け始めて。
そんな中、ただ黙っていたステージ上の彼はマイクを再び口元に近づけた。
「俺は正真正銘“那岐 慎二(なぎ しんじ)”の息子だ。隠すつもりもない」
とうとうその言葉を自ら口に出した。
それは今の天鬼にとっても良い結果にはならないことだ。
契約が破棄されるかもしれない。
そんな天鬼組にはついて行けないと、そう言われてしまうかもしれないのだから。
「悪いがこの話は無かったことに」
「あぁ、まさか天鬼組がそんな男を擁護する連中だとは思っていなかったよ。佐伯組にも落胆だな」
空気は一瞬にして変わる。
あんなにも楽しそうに「今後もよろしくお願いします」なんて挨拶していた男たちが、ぞろぞろと終わらせようとしていて。
受け入れられない者がほとんどの中、私はそっとフォークをテーブルに置いて、グラスに注がれていたジン○ャーエールを飲み干した。



