それに今まで履歴書等にも“天城”として通していたから。
たまたま読み方が同じだけ。
そういう偶然はどこにだってありふれてる。
そう、誤魔化せたらしい。
「ふーーっ…あと少し。あと少しの辛抱だ絃っ」
やっぱりあの場に戻るのも気が引けて、理由なくパウダールームに向かって時間稼ぎ。
女の人に囲まれる絃織を見るのも、大橋さんにどうにかバレないようにやり過ごすのも。
パーティー終了まで残り約1時間。
1時間の辛抱だ。
「まぁでも、ただ食べてただけなんだけど…」
お父さんの知り合いに軽く挨拶をした程度で、それ以外はお酒を口にもできないから食事に手を付けていただけだった。
あとは生演奏を聞いたり、シェフさんが作っているところをじっと眺めたり…。
「よしっ!戻ろっ」
少し賑やかさが抑えられていたドアの先へ戻れば、ステージには絃織が立っていて。
ここはみんな極道の世界に関わっている人たちの集いだってことを忘れていた…。
そうだ、これが今日のメインだったのだ。
「ご存知の通り、天鬼組は組長と頭が変わった。今日はその紹介をしたいと思う」
マイクを片手に進行をするのは千春さん。
ピシッと着こなしたパンツスーツはやっぱり格好いい。
長い黒髪も凛とした風貌も、男に負けを取らない強さがにじみ出てる。
「頭を引き継いだ那岐 絃織だ。以後よろしく頼む」
お父さんの紹介はサラッと過ぎ去ったが、それは彼がマイクを持ったときだった。
ざわざわと会場内にざわめきが上がった。
「ナギ…?若頭となるんやったら、天鬼の者ちゃうんか?」



