それこそ料理だけ貰って控え室のスイートルームでゆっくりしてたほうが絶対楽しいのに。
でも雅美さんにここまで綺麗にしてもらったから、さすがにそれはできないか…。
生演奏で流れるクラシックな音楽に余計足がすくんでしまう。
「那岐さんですよね?私、ずっとお会いしたかったんです」
「噂に聞いていた通り若くて格好いい方ですこと」
「ぜひ今度お茶でもいかが?面白い商談話があるの」
うわぁ……案の定だ。
うん、分かっていた。
そうなんだろうなって、そうじゃないはずがないなって。
そりゃね、あんなにスーツ似合ってて格好良くて天鬼組を引っ張る新たな若頭ですもんね。
さっそく女の人に囲まれてるよ……。
「あっれー絃ちゃん、そんなところで何してんのさ」
「っ…!」
見つかった……。
こちらも女性の視線を奪ってる男が近づいてくる。
陽太が名前を呼んだことでお父さんに伝わって、「絃!」と少々大きな声で再び呼ばれたことでみんなが注目して…。
「おお、もしかして彼女が剣さんのお嬢さんですか?」
「あぁ。ほら絃、おいで」
うん、分かってる。
でもみんながそんなに注目するから出づらいったらないよ…。
でもこれはもう行かなきゃだめだ。
「こ、…こんばんは……、」
いそいそとドアから姿を表す。
「お、馬子にも衣装ってヤツ?」なんて、陽太の声が聞こえたけど無視。
ペコリとお辞儀をして軽く挨拶をして、自己紹介をして。
そんなことを一通りすれば賑やかさは元通り。
ただその会話に私の話が加わるくらいで。



