「でもね、私が好きになったのは、絃ちゃんのために強く大人になってゆく絃織ちゃん」



思わず鏡越しに彼女へと、視線を合わせた。

優しく微笑んでくれる雅美さん。



「あなたがいなかったら、私はあんなにも格好いい絃織ちゃんを知れなかった。
だから私は絃ちゃんもすっごく大好きなのよ」


「…雅美さん…、」


「私は綺麗に振られちゃったわ。でも、もし受け入れられていたとしても……それはそれで今みたいにスッキリしてなかった」



すると私の肩をポンっと叩いた。

そしてウインクをパチンとひとつ。



「私に勝ったんだから自信を持ちなさいっ!」



───バシッ!


今度は背中をおもいっきり叩かれる。



「いった…!!ええっ…!?」



けっこう強めだよ…!?

すっごい大きい音が響いたよ!?



「ふふ、天鬼組若頭の妻になるならこれくらいでへこたれてちゃダメよ?」



……妻…。


その意味を理解したとき、すでに彼女はスイートルームから姿を消していた。

こんなに綺麗にしてもらったのにお礼言えてないよ雅美さん…。


だけど、胸につっかえていた気持ちはスゥッと空へ消えた気がして。



「わぁ……、人いっぱい…」



すでにパーティーは始まっていた。


そっと重い扉の先を覗いてみれば、シャンパングラス片手にすれ違う人々に挨拶や他愛のない会話に花を咲かせるお偉いさん方。


スーツ姿のおじさん、ドレスアップをした綺麗な女性。

そしてテーブルの上にはバイキング形式の料理が並んでいて。



「…これ、帰っちゃだめかな」



だってみんな大人だし…。

やっぱり高校生って私だけだ。