ピロロロロ~~~ン♪♪♪


そんなとき、スイートルームのインターホンが鳴った。

うるさくもなく静かすぎず、ちょうどいい音。



「はーい、どちら様で───…」


「久しぶり絃ちゃん」


「…ま、雅美…さん…、」



久しぶりだった。

彼女も忙しい人だから、あまり屋敷に立ち寄らなくて。


だからその笑顔の裏にある本心を探ろうとしても、彼女はとても芯の通った人だから。

逆に揺れる私の瞳を見抜いてしまう。



「入ってもいいかしら。絃ちゃんにしてあげたいことがあるの」


「あっ、うん…!」



あぁどうしよう…。

まだこの人は絃織と私のことを知らないはずだ。



『好きなの、…ずっと好きだった』


『いつも絃織ちゃんの一番になれなくて、くやしい…っ』



思い出すのはあの夜のこと。

彼に身を寄せて、絞り出すように震えた彼女の声。



「あら、すっごく似合うじゃない」


「へへ…そ、そうかな」


「ふふ、もう絃ちゃんも18歳なのね」



彼女はバッグからポーチを出して私を鏡台の前の椅子に誘った。

されるがまま座っていれば、慣れた手つきで筆を出しては私の顔に触れてくる。


メイク、してくれてる…。



「今日はきっと絃ちゃんにとっても素敵な日になるわ」



それはどういう意味なんだろう。

この人はやっぱり優しくて綺麗で妖艶で、魔法使いみたいだ。


そんな雅美さんは相も変わらず見惚れてしまうほどに美しい。

深紅のドレスに真っ赤な唇。

髪は緩く結い上げられていて、細く白いうなじは男の視線を簡単に奪ってしまいそう。