僕の記憶に面白いものなんてほとんどない。


そう思ったが、次に啓治の口から出てきた言葉は予想外のものだった。


「先生の記憶をプレイするんだ」


「え……?」


てっきり自分の記憶を笑われるのだと思っていた僕は、まぬけな声を出してしまった。


「さっき先生のイヤホンをつけさせてもらった」


「でもあれって一瞬だったじゃないか」


思わず口走り、あっと口を閉ざした。


「何打お前、見てたのか」


啓治は驚いた顔を浮かべたが、特に気分を害した風ではない。


ホッと胸をなでおろす。


「あの一瞬で十分だったんだよ」


そう言うとゲーム画面を僕に見せてきた。


『香西清の記憶』


「あの先生、昔はあんなんじゃなかったって噂だろ? だったら途中でなにかがあって、今みたいな抜け殻になったんだと思うんだ」


啓治にしては真剣な口調だった。


先生の過去をのぞき見て笑うというより、原因を突き止めようとしているのかもしれない。


「先生の過去になにがあったって、僕たちにはきっと関係ないよ」


とにかくトイレという密室から逃げ出したくて僕は言う。