それから数分後、担任の香西先生がやってきて朝の会が始まった。


香西先生は40代で、ヒョロリと背が高く、ぼそぼそと口の中だけで言葉を発する先生だった。


かつぜつが悪くて、時々何を言っているのか聞き取れないときもある。


「先生! なに言ってるのか聞こえませぇん!」


先生の話の途中、啓治が悪ふざけのように大きな声を上げた


それを聞いて数人のクラスメートが笑いを漏らす。


しかし、教卓に立つ香西先生は興味を示さず話を続ける。


「先生、聞こえてますかー?」


更に啓治が言うが、やはり反応はない。


香西先生はいつでもこんな感じだった。


授業中に生徒たちが好き勝手遊んでいても、それを咎めたりしない。


なぜ起こらないのか疑問だけれど、そっちのほうが僕たちにとっては都合がいいからみんな詳細を聞くつもりはないようだった。


必要あったのかどうかわからないような朝の会が終わり、5分間の休憩が挟まれた。


「香西先生ってなんだか不気味だよね。何を話してるのかよくわからないし、いつも髪の毛ボサボサだし」


「だよね。でも昔はあんなんじゃなかったらしいよ? 身だしなみもちゃんとしてたんだって」


「え? 嘘でしょー?」


先生が一旦教室を出たのをいいことに、周りの女子たちが噂話に花を咲かせている。


そんなときでも僕はぼんやりと、梨乃の机を見つめているのだった。