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それから朝の会が始まる5分前まで僕はトイレにこもっていた。


幸い、啓治たちは僕を見つけることができなかったようだ。


教室へ戻ると啓治と大夢がこちらを睨みつけてきているけれど、それを無視して自分の席へついた。


「坂口君、大丈夫だった?」


クラスメートの女子が心配そうな声で後ろから声をかけてきてくれる。


僕は前をむいたまま「平気だよ、ありがとう」と、答える。


そんなに心配なら、すぐに先生を呼んできてくれればいいじゃないか。


と、内心では悪態ついた。


みんな、そうことはしてくれない。


後からチクったとか、かばったとか言われるのが嫌だからだ。


だけど完全な悪人にもなりたくないから、すべてが終わった後で心配だけはしてくる。


自分は味方だから、うらまないでねと言いたげに。


梨乃は、そういうことしなかったのにな。


不意にそう考えて、誰もいない机に視線を向ける。


とたんに胸が何かに刺されたように痛んだ。


僕は胸の辺りの制服を拳でギュッと握り締める。


梨乃がいなくなった一ヶ月。


今朝のお母さんの言葉を思い出す。


正確には梨乃がいなくなって29日目だ。


僕がそれを忘れるわけがなかった。


梨乃がいなくなってから毎日、僕は1人で利のを探し続けているんだから。