光を掴んだその先に。

那岐side




「やめだ」


「え、」


「今日はもう稽古は無しだと言ってんだよ」



沈黙を破ったのは俺。


ぼーっとした眼差しの脱け殻を誰かが操作しているような動きで茶を立てる絃を無理やりに止めた。

そんなきょとんとしてんじゃねえよ…。
明らかにおかしいのはてめえだろ。



「つうか、着物はどうした」


「…あ。忘れてた」



セーラー服姿のそいつは、帰宅して着替える作業すら忘れ呆けている。

トランクに乗り込もうとしたり普段笑うところも笑わねえし……変なこと言いやがるし。



『か、家族じゃなくなったら……こう、…口と口を……くっつける…?』



くっつけるわけねえだろ馬鹿。
なんだよ、“家族じゃなくなったら”って。

それは元は家族だった奴が言う台詞なんだよ。



「お嬢…!大丈夫っすか!?」


「……だいじょぶ、ねる、ご飯いらない」


「お嬢…!!え、何事っすか那岐さんっ!」



フラフラと自室へ戻る背中を見つめる俊吾も異変に気づいたらしい。

「俺が聞きてえよ」と返す俺に、じっと絃を見送った付き人はボソリとこぼす。



「…恋っすかねぇ」


「ないな」


「いやいや!16の娘となれば彼氏がいるのは当たり前っすよ!」