「俺は悪魔の子だからさ、桜木って苗字を付けられたのだって……クズの子だと一生背負わすためだ」
そう、佳祐の母親の姓は“桜木”ではない。
それは父方の姓らしい。
彼の母親を犯して種だけ植えた非道な男。
どうしてその姓から逃げられなかったのか、そこには大きな後ろ楯が何かあるのだろう。
そしてその男の息子だという真実はどうしたって変えられないからだ。
「…佳祐は、本当のお父さんに会ったことある…?」
「あるよ、1回。それが父親かは分からないけど、…俺が小学生のときだったかな」
それは初めて聞く話だった。
こんなにもずっと一緒にいたのに、私は何ひとつ知らなくて。
守ってあげる、なんてうわべ言ばかりを言って格好つけて。
「帰宅途中の俺に話しかけてきた男がいてさ、…頬に傷があるんだ、ナイフ痕みたいなもの」
「…ナイフ痕…」
「そいつが俺に…“桜木って名を貰えて嬉しいだろ”って一言こぼして去って行った。関わったのはそれだけで、でも…」
似てたんだよ、俺に───。
そう言った佳祐の顔をどういう眼差しで見つめたらいいか分からないから、床をじっとなぞった。



