『赤ちゃん、いるから。僕の…妹が…、ここで寝てるんでしょ…?』



その膨らんだ腹へ、そっと掌を重ねてみる。

こうすると必ず返事をするかようにぽこぽこ蹴ってくれるから。



『ふふっ、そうよ?名前は絃織に決めてほしいなぁ』


『ぼく?普通は母さんとおやっさんが決めるんじゃないの…?』


『んー、あの人のセンスはちょっとだけ良くないから…』



血の繋がらない妹だとしても、少年にとってそんなものはどうでも良かった。

命の恩人である人たちとの子供に早く会ってみたい。


そして、その子を僕が必ず守ってあげる。



『ごほっ、けほっ、』


『母さん大丈夫…?少し休もう』


『ごほっ、ごほっ…!大丈夫、…平気だよ』



出会った頃よりもだんだんと痩せ細っていってしまっている。

彼女にも分け与えられるはずの栄養がすべて腹の中の子へと。

しかしそこは責められない。



『絃織。あなただけは…絶対にこの子の傍にいてあげてくれる…?』


『…うん、いるよ。僕が守るんだ』



なにがあっても。

どんなに高い壁が2人の間に立ち塞がったとしても───…



『それでも、あなた達が深い深い“絃”で繋がっていればきっと大丈夫』


『…うん』



それが、少年が最期に見た義母の笑顔だった。