「あなたのお母さんは…美鶴ちゃんはねぇ。私のお姉ちゃんのような人だったわ。それに唯一のお友達なの」


「え、そうなんですか…?」


「正義感が強くて活発で…ちょっとだけ男勝りでね。困っている人を放っておけなくて」



知らなかったことが紐解かれてゆく。

母親というものが、自分の中でだんだんと確率されていって。

ふわふわと脳内に浮かばせた女性を母親に見立てた。



「彼女は極道の家系の娘じゃなかったわ」



「え。」と、反射的に出てしまった声が静かな場所にふわっと響いては消えた。



「ごく普通の女の子だったのよ。祖父母に育てられてね、高校には行かずにずっと働いてて」



心の中にある記憶を思い出す雅美さんは、儚げに咲く彼岸花のようだった。

長い睫毛が伏せられて、赤く色付く唇を小さく動かせば、並びのいい歯が見える。



「そんな彼女を剣さん…あなたのお父さんがね、あるときここに連れてきて」



そこでようやく、その名前が出た。
両親の接点はどこにあったのだろう。

極道の家系ではない娘が、この世界に入った経緯は興味深いものだった。



「泥だらけでボロボロ、男に襲われかけていたところを美鶴ちゃんは運良く助けられたのよ」



そこからすべては始まった───と。

それじゃあ彼女も私のように茶道や華道、剣道をお父さんから教えられたのかな…。