「ねぇ俊吾。…ずっと聞きたかったんだけどさ、」
「なんでしょうお嬢!」
そんな韻を踏むような返事が俊吾という男の人柄を表してくれる。
この男は一見変わっていておっちょこちょいで、落ち着いた那岐の付き人にしては珍しい類いだ。
彼が傍に置くなら、もっと出来た子分を置くんじゃないのかと誰もが思うだろう。
でも何となく、俊吾を置く那岐の気持ちが少し分かるような気がする。
「那岐って幹部の中でもいちばん若いよね?那岐は……何者なの…?」
その笑顔がふと、止まった。
あの日、上層部の集まった大広間には那岐と同じスーツ姿の男が数十人いて、その姿は幹部という証らしい。
だから那岐も天鬼組の幹部。
しかし他の幹部は、下手したら俊吾よりもずっとずっと年上だった。
40~50代が揃う中で、まだ20代前半の那岐。
「…那岐さんも、特別なんです」
「特別…?」
「えぇ、でもそれは実力でしか這い上がれない特別です。
オレはあの人を組長やお頭よりも尊敬してます」
こんなこと誰にも言えませんけど───困ったように頭を掻いた俊吾。
「秘密っすよ」と、人差し指を唇に当てた。



