「やぁぁぁーーー!!おりゃーーー!!」
「そこで踏み込んで面じゃなく胴を狙え。あと、シンプルにうるせえ」
「えっやだ面がいいっ!メーンッて、わっ!ぎゃっ!」
パシッと、胴に相手の竹刀が綺麗に入った。
防具をしているために痛みはそこまではないものの、これは完全に1本取られている。
「正面突破していいのは技術がある奴だけだっつったろ。隙だらけなんだよ馬鹿」
「また馬鹿って言った!だって面を取った方が格好いいもんっ」
「格好どうこうの話じゃねえんだよ。死ぬか生きるかだぞコラ」
防具を何も付けていない男は、剣道のときだけはさすがに袴姿。
竹刀を片手に「だが、」と口角を上げた。
「お前はこれがいちばん得意ってことは分かった」
「だよねっ!私もすっごく楽しいの剣道!」
「…どっちかっつうと母親似だな、お前は」
この人も私のお母さんのことを知っているらしい。
でも踏み込まない。
それは、これ以上聞くなと空気が作られていたから。
防具を外して水分補給。
「お嬢!今日もお疲れさまっす!」
今日の稽古も一通り終わって、縁側でぼーっとしていれば賑やかな男が現れた。



