私の初めてのキスは那岐じゃない。


私だってそれがすっごく悔しい。

佳祐はあんなこと言ってたけど、私はやっぱり大切にしたかったものだから。

好きな人としたかった。
那岐がよかった。


………ん?待って。

そういえば那岐も初めてかは分からないけど……桜子ちゃんとキスしてたような…。



「…なんで泣いてるんだ。どうした?」


「ぅわぁぁんっ、だめじゃんんっ、両方だめじゃんかぁっ」


「駄目?…言わないと分からないだろ、絃」



すっごく優しい声だ。

それは昔、泣いていた赤ちゃんをあやすようなそんなものとはまた違うもの。


ちゅっ、ちゅっと流れる涙をすくうように甘いキスが頬に降ってくる。



「ん、っ、ごめんねなぎ、あのね、わたし…ふぁーすときす……なぎじゃない、」



ピタリと動きが止まった。


引かれた…?嫌いになっちゃった…?
やっぱりこんなの嫌だよね…?

そりゃそうだ私だって嫌だもん。



「き、きらいになる…?やっぱだめ…?」


「…なるわけねえだろ。佳祐は潰してえが」



潰すは、ヤバい。

メラメラと那岐のオーラがダークなものに変わっていってる…。


……ん?………あれ…?



「…え。どうして佳祐って知ってるの…?」



すると那岐はスッと立ち上がった。



「那岐…?」



そのままスタスタと部屋を出て行ってしまって。


…………え。

え、え、やっぱり嫌いになった…!?



「だよねぇっ、そうだよね、……ふ、振られた……?」