『おいし?』


『うんっ!』



もう一口欲しいのだろう。

絃は同じように『あー』と、口を開けてくる。


しかしあまりあげすぎてはいけない。

それに絃織も食べたかった。



『ちょっと待ってね、次は俺』


『いとも!』


『これは赤ちゃんには早いんだって』



そんな意地悪を言ってみた。

いやいやと今にも泣き出しそうだが、そんな姿をからかうのも好きだったりする。


ふっと笑い、少年はアイスを自分の口に運んだ。


少しわざとらしく『うまい』と言ってみれば、もっともっと泣きそうな顔になる。

しかし赤ちゃんではないことを示したいのか、必死にこらえていて。



『わっ、ちょっと絃、』



とうとう膝の上に乗ってきたかと思えば、顔を寄せてくる。

ごめんあげるって、と言いかけた少年の唇に優しく柔らかいものが合わさった。



『───…』



ちゅーちゅーと、少年の口へ運ばれたアイスを食べようとしているのだろう。


───バニラ風味の、それ。

その意味をまだ少女は知らない。



『……こういうのは…大人になって好きな人とするものなんだよ、絃』



頭の上にはてなマークを浮かべる絃は満足そうに笑った。


それはバニラアイスの味を楽しめたからか、それとも少年の唇がアイスのように冷たくて気持ち良かったからか。

どちらにせよ、大人になったら違う意味として取れてしまう行動だった。



『でも絃は、…大きくなっても、俺としてくれる?』


『うんっ!』



これはそんな秘密が生まれた日。


かわいい約束を小さく交わした夏の夜───。