『…あっつい……』



声に出してしまったらもっと暑くなるって聞いたことがあるから、言わないでおいたのに。

少年はとうとうつぶやいてしまった。



『あついー!』


『暑いね、水遊びする?』



クーラーは絃がお腹冷やしちゃうからって、あまり付けるなと使用人には言われていた。

だからこうして縁側の日陰で寝そべるように涼んでいるわけなのだが。


たとえ夕方だとしてもセミの鳴き声に生ぬるい風では、涼しくなるものもならない。



『でも昨日したしなぁ』



小型のビニールプールを張って、パシャパシャと足を浸ける程度に。

絃織にとってはそんなものだとしても、絃は服を水浸しにしてまでもはしゃいでしまうから。



『するっ!ぱちゃぱちゃ!』


『うーん、やっぱりパシャパシャは明日にしようか絃』


『えー!』



何より着替えさせるのが厄介なのだ。

イヤイヤ期というものだろう。

あれも嫌、これも嫌と、わがままが増えている最近だから。



『あ、絃織ちゃん。ちょうどいいところに発見』


『雅美姉さん。どうかしたの?』


『広間から盗んできたの。暑いでしょう?良かったら2人で食べて』



今日は大人たちが集まる広間は宴会場となっていて、賑わっていた。

そんな場所に子供の自分たちは当たり前だが行くことはできない。


それに絃は余計にそういうものは駄目だから、離れの屋敷でふたり揃ってお留守番していた。


そんなところに現れた義母の友人でもあった10歳年上の女は、ひとつのカップアイスを差し出してくれる。