「ほんと、馬鹿みたいに一途。…あの男のどこにそんな魅力があるんだか」
飛び散った小さな紫色をかき集める手が一瞬止まった。
陽太じゃないくらいに低い声をしていたから、少し背筋がゾクッとして。
けれど表情はいつもと変わらない笑みを浮かべているから。
それもちょっとだけ怖いと思ってしまった。
「絃ちゃんは絃織さんのどこが好きなの?」
唐突な質問だ。
まぁいつも陽太にはいろいろ相談に乗ってもらったりしてるから、たまには質問に答えてもいいかな。
「那岐といると…怖いものがないから」
「なんにも?」
「うん。なーんにも」
本当にない。
ふたり一緒なら、どんなことだって乗り越えられちゃうような気がする。
ううん、乗り越えてきた。
きっと昔だってそう。
ずっと2人でいたんだと思う。
「じゃあもし、絃織さんが裏ですっごい危ないことしてたら?」
「危ないこと…?」
「こういう世界って絃ちゃんが思ってるほど綺麗じゃないんだよ」
それは、少しずつ知ってきてる。
騙し騙されの世の中。
肩書きに支配されてる世の中。
人の命を賭けてしまうような世の中。
「それでも、好き?」
もし那岐が私の知らない今までに、想像もしていないような危ないことに関わっていたとしても。
それでも私は私が見た那岐が好き。
「うん。好き!」
「…そっか」
なんか恥ずかしくなってきた。
陽太のことだから、からかってきそうだし…。
話題を変えよっと。



