そんなこと分かってる。
私なんかに何ができるのって、思う。
だけどいきなり来られて、いきなり知らない場所に連れられるなんて、そんなの分からないよ。
わからないことだらけなんだよ。
「俺も昔、同じだった。ぜったい俺の手で、俺だけの手で守りたいモンがあったんだ」
男の声は微かに震えていた。
しかしその瞳はやっぱり私を捉えては離そうとしないから。
「…でも、守れなかった。俺は守れなかったんだよ。
それは俺に……誰かを守る強さも力も無かったからだ」
その世界は私からずっとずっと遠いはずだったのに。
でも今、こうして関わってしまってる。
すると男の手は、サラッと私の額(ひたい)を隠す前髪を持ち上げた。
「っ…!」
その場所にある傷。
どうしてそれすらもこの人は当ててしまうのだろう。
「……なんで、」
3センチほどの線がひとつ。
それは私ですら、どうして付いたのか分からない小さな頃の古傷だった。
困惑する私とは反対に、男は悔しそうに唇を噛んだ。
「…離して。私は行かない」
少々トーンを変えて言った私に、そのまま腕をそっと離して出て行った那岐という人。