「な…ぎ……?」
壊れるって、どうして…?
なにが壊れるの…?
あなたがいま必死に守ろうとしているものは、なに……?
もう私たちはぜんぶ解決したはずでしょ…?
もう怖いものなんかないはずなのに、那岐は何に怯えているの…?
「…冒険の書は…俺たちには遠すぎる」
反応すれば良かった。
大丈夫だよって。
那岐と一緒ならへっちゃらだよって。
ふっとかかった息が、揺れた黒髪から覗く形のいい耳が、ピアスぜったい似合うなぁ…なんて思ったりして。
そんなぜんぜん関係ないことを私は考えてしまっていた。
「那岐、信号変わっちゃう、」
「…あぁ」
ギリギリで止まった動きはスッと離れてしまった。
そしてパッと変わる信号。
何事も無かったかのように発車し、私はずっと窓の外を眺めた。
「ごめんね絃ちゃん。俺、前々から思っててずっと黙ってたんだけど…さすがに言っていい?てか言わせて?」
「うん」
「お前ほんっとすっごい馬鹿」
せめて間髪くらい容れて。
ていうか、もうちょっと柔らかく言って。
すっごい傷つくから。
そりゃね、「冒険の書はどこにありますか」なんて真面目に聞かれたら、誰だってそう思うかもしれないけどさ。



