ぐいぐいと逃れようとしても、掴まれた力はびくともしない。
手首いたい……。
それでもこういうときに限って、記憶の奥にある優しい男の子を何故か思い出してしまう。
その人だったら、きっと私はちょっとでも嬉しかったのに。
「離せよ、おっさん」
「……あ”?」
「女子高生にモテたいからって強引すぎだろ」
佳祐、確かにこの人は私たちより年上だろうけどおっさんではない気がする…。
それにわざわざ自分から引っ張らなくても町を歩いてればキャーキャー言われるよ、きっと。
それでも泣き虫だった佳祐が初めて男の子に見えた。
「…那岐 絃織(なぎ いおり)」
「は?」
「名前だけでも覚えとけクソガキ」
おっさんと呼ばれたのがそんなに嫌だったのか、勘に触ってしまったのか。
「まだ22だ馬鹿野郎」と、吐き捨てるようにつぶやいた那岐という男。
なぎ……いおり───…。
やっぱりどこかで聞いたことがあるような気がする。
「絃、お前はこれからもっと俺たちと居ないと無理な状況になる」
また名前を呼ばれた…。
それに呼び捨てだし。
礼儀とかないのかな、このひと。



