「…行くなよ、」
いつの間にか同じようにベッドに座る佳祐。
伏せられた睫毛がピクッと動いて、小さなつぶやきさえしっかり耳に届いてくれる。
「…話しかけるなっていつも言うのに?」
「……お前、昔の約束忘れたのかよ」
約束……?
佳祐とはいつだって些細な約束だとしてもたくさん交わした。
ひとりで泣くなら一緒に泣こう、
私たちはいつまでも家族だよ、
他にもたくさんたくさん。
「…お前が俺に言ってくれた約束だよ」
「“佳祐は私が守る”」
出会った頃から泣いていたような男の子。
長く伸ばした前髪で顔を隠して、話しかけてもビクビクおどおどしてた女の子みたいな子。
“絃ちゃん待って”が、昔の佳祐の口癖。
「───でしょ?」
「…覚えてんじゃん」
「うん、忘れないよ。佳祐との思い出は私がいちばん持ってるから」
怖がりで臆病だったから、男勝りな私はその手を引いて走ってた。
誰を真似してるのかも分からないけど、『守る』なんて約束して。
───コツン。
昔から変わらない少し芯のある髪が頬に触れて、肩に重みが加わる。



