『絃(いと)。…良い名じゃないか』



赤子は小さな手を一生懸命伸ばしてくる。

なにを掴もうとしているのか。


僕の顔に何か付いてた?なんて、つぶやいてみる。


きゃっきゃと響く声はお日様みたいだった。



『あ、…掴んだ』



きゅっと少年の小さな指を、それ以上に小さな掌が握った。



『きっと絃もお前に会えて喜んでるんだろうな』



男はそっと、少年の腕に優しく赤子を移してやる。


どう触れていいかも分からない。
強くしてしまえば潰れてしまうかもしれない。

それなのに、あたたかい。



『ぼくが……、俺が、絶対に守るよ。
───…絃』



少年が“僕”から“俺”になった日。

それは、目の前の光に初めて触れることができた日だ。



『俺の、たった一人の……妹』



父親が死んで、その親友の男に引き取られて1年ばかり。

まさかこんなにも大切な光と出会えるなんて。


ぎゅうっと、その小さな命を精一杯に抱きしめる。




『もしいつか、離れるときが来ても。…俺が絶対にお前だけは守るから』




少年の涙は、ポタポタと雪のように柔く白い頬へ落ちた───。