「…ふっ、」
あ、今まででいちばん優しいやつだ。
それにきっと、見えないけれど優しい顔してるはずだ。
背中に当てられた掌が熱い。
トクントクンと心臓の音を感じると、その奥にある微かなドキドキがスピードを増している。
「ん、那岐…、くすぐったい、」
首筋に顔を埋めた那岐は、熱くも甘い吐息をはあっと吐いた。
「…やっぱ14年は…長ぇよ、」
空白の14年。
それは私が2歳、那岐が9歳。
どうして私が施設に預けられたのかも、そのとき那岐はどうしていたのかも、なんにも分からないけど。
「ガキじゃねえし、でもぜんぜん変わんねえし……どう接すりゃいいんだよ…」
弱音のような、本音のような。
でも嫌なものでもなく寂しいものでもなく。
こうしていまお互いが触れ合えていることが何よりも幸せに感じた。
「…迎えに来てくれてありがとう、那岐」
私はこの人をずっと待っていたような気がする。
だって忘れたことなんかなかった。
記憶の中にある思い出は確証だって無かったのに、どうしてかそれだけは忘れなかった。
それはきっと私だって那岐を忘れたくないって、ぜったい忘れないって思っていたからだ。



