那岐が記憶の中の男の子だった。
私と那岐はずっとずっと昔からの知り合いだった。
かつて一緒に手を繋いでいた。
それがこんなにも嬉しいだなんて。
まだ私たちの関係は謎だらけだったとしても、それでも那岐にまた少し近づけたような気がして。
「…もういいか」
「もうちょっと!」
「…毎日毎日よく飽きねえな」
目の前にはため息を吐くように優しい顔で瞳を伏せる那岐。
私は身を乗り出すようにその額に触って、間近で傷を見る。
本当に同じだ……まったく同じ傷だ。
「やっぱりすごいよっ!これ実は何かの紋章で、私たちは選ばれた戦士だったりしない?」
「…なんの戦士だよ」
「うーんと、一緒に冒険の書を探しに行くっていう…」
「どこぞのRPGだ」
那岐の部屋は奥の角部屋。
あまり人の通らない離れにある、日の当たらない場所だった。
そんな私の最近の日課は、こうして湯上がりの寝間着姿で彼の部屋にお邪魔すること。
「あっ、そろそろ寝なきゃ!」
時計の針は22時半を回っていた。
春休みもあっという間に過ぎて、明日から私は高校2年生。
もちろんクラス替えがあるわけでもないから、相も変わらず明莉と優花とのスクールライフ。
そしてもちろん送迎つき。



