「見て見て那岐っ」
舞い上がってひらひら落ちた桜色をつまんで、口元へと近づける絃。
ピーーーっと、高く細い音が響いた。
「桜って笛になるんだよ」
「…知らなかった」
「こうしてね、ちょっと伸ばして吹くの!」
キラキラ輝くものは遠くから見たほうが綺麗だとこいつは前に言っていたが。
俺は、それとは少し違った。
俺だけが知るもので、俺の目の前で、俺の近くにさえいれば綺麗なのだ。
遠くなんかじゃ駄目だ。
こうして掴んでいないと光はどんどん遠退いてしまうから。
「絃。…もし俺の存在が、…お前を傷つけるとしたらどう思う」
「…那岐が?」
「…俺のせいで、お前を泣かせて苦しめて……、痛みしか与えられなかったとしたら…」
必ず桜木は俺が殺す。
たとえその男がお前にとって大切な存在の父親だったとしても。
やっと見つけたんだ。
俺はずっと、14年、このときを待っていた。
「大丈夫だよ、那岐。」
あの瞬間の少女の悲鳴を今も昨日のことのように覚えている。
恐怖に怯え、熱いナイフのような石を向けられたお前はどんなに怖かっただろう。
俺の名前をずっと呼んでいたというのに、なにもできなかった無力で情けない男へと、なぜこいつは笑いかけてくれるんだ。



