「着物可愛いね、この辺の子なの?せめて連絡先とか交換しよーよ」
「わーー!もう離してっ」
「やーだよっ、連絡先教えてくれるまで離さないね」
「それ一生だよ…!?一生掴んでるの!?そんなのやだぁ…っ!」
ったく、隙だらけなんだよ。
もっと危機感持てっつうんだよ。
俺がふだん剣道教えてる意味がたまに分からなくなってくる。
「ふるふるするだけで交換できるよ?あ、それか他のナニかも振っちゃう?」
「他の何か…?って、なに…?」
…あの野郎共。
潰す。
「だったら無理やりにでも離させるしかねえな」
「那岐っ!」
クルッと向き直った絃は瞳を輝かせて名前を呼んだ。
気配なく近づいて音もなくその手を離させ、最終的に地面に倒れる数人。
まるで当たり前のようにこなしてしまうスムーズさは、とくに手間すらをも取らない。
「組長とおやっさんが揃ってるってのに、命知らずの馬鹿だな」
「それとすっごく強い教育係もねっ!」
まぁ間違ってはねえが。
だが教育係ってのも、いつかに自分で言っておいて違う気もする。
コツンと軽く頭を小突けば、肩をピクッと跳ねさせた絃。
「…だからあまり遠くへ行くなっつっただろ」
「だーってみんな大人ばっかりでつまんないんだもん…」
ぷくっと頬を膨らませる絃は、他の花見客をじっと見つめる。
その先には手を繋いで仲睦まじく笑い合う若い男女。
私服姿だが、絃とあまり変わらない年頃だろう。



