別にしてねえよ、と言ったところで見透かされていそうだから、浅くうなずくだけに留めた。
桜木という名前───それが、あの男の新たな情報だった。
ずっと俺も探していた男だ。
あいつだけは俺の手で必ず殺すと、幼い頃から願っていた存在。
あれから俺はそいつの情報を集める日々。
そしてその車をどこで見つけるか分からないからこそ、常に油断ならぬ生活を送っていた。
「心配なのよ。私はあなたのことが心配なの」
「…気持ちだけ受け取っておくよ」
「ちがう。絃織ちゃんはいつか何も言わずに消えて行ってしまいそうで…わたし怖いのよ」
そんなものはこの世界に身を置いている以上、誰にだって当てはめられる話だ。
否定もできなければ肯定もできない。
そして己の向かうべき地獄へとまっすぐに走る。
それが強くなるため、あいつを守るために俺が選んだ世界だった。
「つか、遅ぇなあいつ」
「絃織ちゃん、」
スッと立ち上がった俺に、女はどこへ行くの?と言わんばかりに腕を掴んでくる。
それは「行くな」と向けられているようで、そんなものを言わないこの女にも昔から常に救われてきた。
「絃織ちゃんのその気持ちは…“情”なのよね?」
その質問の意図が分からなければ、意味も理解し難い。



