「いつもは、もうちょっと力つよいから…」
「…こんなモンだろ」
「ううんっ、パシッって音するもん!」
確かにあの日以来、そんな音は無くなった。
擬音で表すならば「トンっ」や「ぽんっ」
手加減は最初からしていたはずだが、確かに最近はしすぎているかもしれない。
「どうしたの…?那岐、ちょっと優しくなった」
俺はそんなに怖かったのかと質問するより先に「元から優しいときは優しいけどっ」と、追いかけるように訂正される。
そんな姿に俺もまた視線を逸らすことしかできなくて。
そんなものにモヤモヤと、どこか落ち着かない。
「では今後も天鬼組の発展を祝い───乾杯!」
低い声と共に、いくつもの盃が空へ掲げられる。
むさ苦しい男ばかりの場を彩る桜が、今年は新しく増えた。
豪華な料理、たくさんの酒。
組の全員はさすがに集められないが、中々に多人数での花見が今年も行われた。
「お、あんたがお頭のお嬢さんかいな」
「は、はじめまして…天鬼 絃です!」
「ワシは関西区域を取りまとめてる桐生や。よろしゅうな」
「よろしくお願いします…!」
普段集まる上層部以外に、今回は地方からの幹部も集まっていた。
絃の噂はやはりみんな聞いているらしく、興味本位で近づいては軽く挨拶をしてくる。



