朝から雨だったというのに、気づけば空は晴れていた。

縁側に座った少年は近づく足音に振り返る。



『おやっさん!』


『無理に呼ばなくていい。慣れるまで“おじさん”で構わないと言ってるだろう』


『…ううん、無理なんかしてないよ』



困ったように眉を寄せた派手なスーツ姿の男の腕に抱えられている、小さな命。

どうやら少年の願いは叶ったらしい。


今日だけは晴れてください───と。


昨夜からずっと握っていた、てるてる坊主がその証だった。



『女の子だ、絃織(いおり)。お前が名前を付けてやってくれないか?』


『でも…おやっさんの大事な娘だから…』


『お前も俺の大切な親友の息子だ。同じくらい、大事なんだよ』



あぁ、なんて優しい人なのだろう。
なんて優しく微笑みかけてくれるのだろう。

この人の娘で良かったね、なんて赤子に言いたくなった。



『───…いと。』


『…いと?』


『うん。…僕にも、同じ言葉が入ってるから…。“絃”』



気に入ってくれるだろうか。
自分と同じ名前が嫌だと泣いてしまわないかな。

そんな不安は、赤子を抱えた男の笑顔に吹き飛んでしまった。