「その、いきなりあんなことしてごめん」

今度は思い切り頭を下げて、顔が見えなくなった。
90度どころか120度くらい腰が折れている。

顔は見えない。
けれども、いつもは芯が通ってはっきりとしている声が震えているのがわかって、泣きそうになっていることに気づく。

男子高校生が泣きかけるという現場に遭遇したことのない私は、誰が見てもわかりやすく戸惑っていることだろう。

「わ、私達は恋人なんだし、謝らなくて大丈夫だよ!まぁ、みんなの前でっていうのはかなり恥ずかしかったけど〜」

オロオロとしながらもなんとかフォローの言葉をかける。
気にしていないからこそ後半はわざとおちゃらけてみせた。

だって本当に気にしていない。

過ぎたことは今更何を言っても変わらない。
それに、私が慎くんと付き合うことを選んだ時点でそれなりの覚悟を持たなければいけなくて……こういうことを避けきれなかったのは自分の落ち度とも言える。

世間から見ても私達は恋人同士で、片方の想いが強すぎてキスしちゃった、というくらいで裁かれるような罪も犯していない。
私としては様々な面から考慮しても全く問題ないように思う。

キスをされた本人はここまで割り切れているというのに、慎くんの表情はなぜかいまだ暗いままだ。