「たしかにそうですよね。やっぱり国花だからっていうのがあるのかな。あ、でもたしか菊も国花でしたね」
「菊かー……それはなんか、眺めて酒飲んで騒いだら罰当たりな気がする」

「温暖化でこれからどんどん暖かくなるから、そのうち調度よくなるんじゃない?」と言った君島先輩に、渡さんが苦笑いを返す。

「いや、そしたら桜の開花だってどんどん早くなるでしょ。そのうち二月開花とかなったら……ダメだ。考えるだけで凍える」

そんな話をしながら大通りに出た時だった。
車道と歩道の境にあるガードパイプに寄り掛かっていた女性が話しかけてきた。

「〝春野ひなた〟って、あなた?」

足を止め、女性の方に向き直る。
夜空の下、車道を背に立つ女性はスーツに身を包んでいて、こちらをじっと見ていた。

前髪を真ん中で分け、肩下二十センチ以上ある茶色い髪にはふわふわとしたパーマがかかっている。
持っているハンドバッグは誰もが知っているハイブランドのモノグラムで、高いヒールを履いていた。

顔立ちはとても整っていて、格好やスタイルも相まってまるでモデルみたいに見える。
見覚えはなかった。

「そうですけど……どちら様ですか?」と聞いた私に、女性は寄り掛かっていたガードパイプから立ち上がった。

「初めまして。彩佳です」
「彩佳……さん?」

こういう場では通常なら名字を名乗る。それなのに名前だけ名乗られたことに戸惑っていると、彩佳さんが続ける。