『あの、こういう事件に巻き込まれるのって今回が初めてですか?』

車上荒らしに遭った日、マンション前まで送ってもらった時に聞くと、東堂さんは不思議そうな顔で答えた。

『ああ。……なんでだ?』
『あ、いえ。その、警察と話している時、東堂さんに動揺した様子がなかったので。私だったら混乱してまともに受け答えできないと思うので。すごいですね』

笑顔で言いながら、頭では別のことを考えていた。

脅迫状の犯人と車上荒らしの犯人が同一人物の可能性はどれだけあるのだろう。
きっと違うと思いながらも、可能性を消し切れなかった。


週が明けた月曜日。終業後、渡さんが受付に顔を出したタイミングで東堂さんとのことを報告すると、渡さんは言葉を失うほど驚いた。

目を見開いたまま固まったあと、「えっ、付き合いだしたって……本当に?」と信じられないといったトーンで聞かれうなずく。
ちなみに、君島先輩には仕事が始まる前、更衣室で報告済みだ。

「はい。そういう運びになりました」
「え、それ、強引に話進められちゃったとかじゃなくて? もしそうなら俺がハッキリ言ってやろうか?」

私たち以外に人気のないロビーはとても静かで、遠くでエレベーターの到着音が聞こえていた。
心配そうに言う渡さんに、照れながらも微笑む。