「すみません。私、わがままですけど恋愛したいです。誰かを好きになって想い返されてみたい。ですからこの縁談、断って頂いて構いません。お忙しいのにお時間をとらせてしまい、申し訳ありませんでした」
座ったまま頭を下げる。
その際、視界に自分が着ている振袖が映り、こんなに綺麗に着飾ってもらったのにすぐに終わってしまい、もったいないし申し訳ないなと思った。
初めてのお見合いは思っていたものとはまったく違っていたし、少し悲しい気持ちにもなったけれど、それでも背筋をピンと伸ばしていられたのは、この綺麗な振袖のおかげだろう。
タクシーでマンションに帰り、すぐに振袖を脱ぐ。
衣装敷きを広げた上に立ち、帯を解き振袖から腕を抜いていく。帯も振袖も長いので、私の住むワンルームではなかなか畳む場所が確保できずに手間取った。
部屋の真ん中に置いてあるローテーブルをキッチンに押し込み、ソファをぎりぎりまで部屋の端に寄せて作ったスペースを使い、ああでもないこうでもないと専用サイトを見ながら畳み切った頃には、三月だっていうのに体がポカポカ温かくなっていた。
なにせ、振袖を畳むのなんて初めてだ。成人式には出なかったので、振袖に袖を通したのも今回が初めてだった。
だからいい経験はさせてもらったし、とても嬉しかったけれど、脱いで畳むことまでを考えると今後そういう機会が訪れたとしても少し考えてしまいそうだ。
帯枕など小物を紙袋ひとつにまとめてから立ち上がり、ひとつ背伸びをしてから家具を元の位置に戻す。
それから携帯を取り、お母さんに電話をかけた。
私からの連絡を待っていたのか、すぐに明るい声が聞こえてくる。



