「それに、ひなたの前では、会社での立場だとか、〝東堂〟の名前は関係ない。ひなたを好きな、ただの男だ」
空気が一気に甘くしっとりと色づく。
過ごし慣れている自分の部屋なのに、東堂さんが目の前で微笑むだけでまるで違う場所のように思えた。
「無条件で信頼されるようになりたいとは思ってるが、ここ最近はタガが外れてるな。ひなたに対しては欲が出てばかりだ」
その声にも、細められた目にも露骨に情愛が含まれていて、喜んだ胸がキュッと縮こまる。
熱を持ち始めた私の頬を東堂さんが撫でるので、その手を捕まえて握り締めた。
大きな手も、この体温も、好きで好きで仕方ない。
東堂さんが笑ってくれるだけで、触れるだけで、気持ちがこれ以上ないほど満たされる。
こんな恋をできるなんて自分自身思ってもいなかった。
「嬉しいです」
私に対しては欲がでると話す東堂さんを見上げ、微笑む。
一ヵ月半前のお見合いの席で、東堂さんの瞳も表情も望むものなんてなにもないと物語っていた。
そんな東堂さんが今、こうして私を望んでくれることが嬉しくて幸せで堪らなかった。
どっぷりと蜂蜜にでもつかってしまったような幸福感に満たされ、この先がなんだか怖くなる。
それでも、東堂さんの傍でならなんでも乗り越えられると思えるのだから……恋は盲目とはこういうことを言うのかなと、温かい腕のなかで思った。
END



