打たれた頬に手を当てた准さんが「痛い……」と呟いたのを聞いた彩佳さんが「私だって痛い! 甘えたこと言ってんな!」とすぐに言い返す。

「大好きな晃成の幸せを、あんたが壊してどうすんのよ。っていうかそもそも、人の心配してる暇なんかないでしょ。あんたは自分のことをまずどうにかしないと。自分ひとりどうにもできないやつの言葉なんか誰も聞いてくれないし、ただの負け犬の遠吠えなんだから。はぁ……カッコ悪い」

情けないと言わんばかりの顔でため息をついた彩佳さんが、准さんの上から立ち上がる。
なんの拘束もなくなっても、准さんはそのまま大人しくしていた。
逃げ出す気配も暴れ出す気配もない。

膝をポンポンと叩いて埃をはらった彩佳さんが、私に向き合うように立つ。

「ごめん、ひなた。……晃成も。こんなこと言うのはおかしいって思ってるけど……准のことは私がなんとしてでも更生させる。約束する」

そこまで言った彩佳さんが、准さんを振り返り「准! これからお姉ちゃんが自分のせいで頭を下げるのをよく見ておきなさいよね!」と大声で言うので、慌てて止めた。

頭を下げられても困る。

「あの、私、准さんのこと見逃します。だから、これ以上謝っていただかなくても大丈夫です」

東堂さんの「は?」と彩佳さんの「え?」が重なった。