「……渡さん?」
自販機の側面に背中をピタッとくっつけて身を潜めていたのは、間違いなく渡さんだった。
私を見て苦笑いを浮かべた渡さんが、自販機の陰から道に出てくる。
「春野、体力すごいな……。あのまま持久戦になったら追い付かれると思ったから隠れたけど、どっちみち見つかったな」
「なんで……私の後をつけていたの、渡さんだったんですか?」
目の前に立った渡さんが、申し訳なさそうに表情を崩す。
「……うん。ごめん」
嘘だ。だって、じゃあ、電車内で感じていた視線も、マンションまでの帰り道に後ろにあった気配も……あの手紙も、全部?
信じられなくてなにも言えなくなった私を渡さんもしばらくは黙って見ていたけれど、そのうちになにか思い出したように「あ、待って」と慌てて話し出す。
「なんか勘違いされてるっぽいけど、春野のあとをつけてたのは、この一週間ちょっとだけだから」
「一週間……?」
「うん。バレちゃったから白状するけどさ、東堂さんに頼まれたんだよ」
渡さんが言いづらそうな顔で口にした名前に驚く。
「え? 東堂さんに?」
頼まれたって、いつ、なにを?
わからなくて眉を寄せた私に、渡さんが順を追って説明する。
「飲み会の後、東堂さんに送ってもらっただろ? その翌日の朝、インターホンが鳴ってさ、出たら東堂さんだったんだよ。で、春野の様子がおかしいけど、なにか知ってたら教えて欲しいって言われた。だから、俺の知ってることだけ話した」
自販機の白い明かりが渡さんを横から照らす。
少し肌寒く感じる春の夜の空気の中、渡さんが続ける。



