御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない



たしか、東堂さんが出張に行った当日に〝今週から来週にかけて忙しい〟と話していた。

あれから受付にも顔を出さないから、本当に仕事が詰まっているんだろう。
年度初めだし、新規開拓だとかそういう関係もあるのかもしれない。

「私が送れればいいんだけど、今日は習い事があって……ひとりで大丈夫?」

心配してくれる先輩に笑顔を返す。

「大丈夫です。ありがとうございます」
「うん……でも心配だな。携帯持って歩くんだよ。なにかあったら迷わず110番できるように備えてね」

110番という言葉にドキッとしながらも、そういう選択肢も頭に入れておかないと……と思いうなずいた。


視線を感じたときには、得体のしれない相手に対して怖さと気持ち悪さを感じた。
それは本当なのだけれど、110番なんて言われると怖気づいてしまう。

警察に通報するという行為をためらう人は少なくないと思うし、それは私も同じだった。
だから別に実害があるわけでもないし、と片付けたくなっていた……のだけれど。

この日もそれまでと同じように不気味な視線を感じれば、そう悠長なことも言っていられなくなる。

十七時過ぎ。暗い中灯る街灯がとても心もとなく感じるのは、私の心理状態がそう見せているだけだろうか。

マンションの最寄り駅で電車を降りてから、ずっと誰かにつけられている気配を感じていた。