「あ……」
混み合っている電車内。タイミング悪く駅に着いたのもあり、その姿を見失ってしまった。
目が合い、焦ったように私に背中を向けたのは……間違いなく彩佳さんだった。
「それ、春野ちゃんをつけてたってことだよね。渡くんが言ってたけど、彩佳さんがいる支社ってうちの会社からはちょっと距離あるし……同じ時間の電車に乗り合わせるのは、意図的じゃないと無理があるよ」
電車内で彩佳さんを見た翌日、始業時間前に報告すると、君島先輩は不可解そうに顔を歪めた。
「ですよね……。でも、つけられてる意味がわからなくて」
「彩佳さんなら、言いたいことがあれば言ってくるだろうしね。それをしないでコソコソしてるってことは、よくないことしようとしてるとか?」
君島先輩の言う可能性を目を伏せ考えてみるものの、どれもしっくりこなくて首を傾げる。
単身私の前に姿を現した彩佳さんが、今更身を隠して私になにかするとは思えない。するなら最初から正体は明かさないと思う。
私に顔がバレていたら不利なのは確実なのだから。
でも……電車内で私と目が合うなり背中を向けて電車から降りたのを、この目で見たのも事実だ。
頭の中がごちゃごちゃになったところで、君島先輩が諦めたようなため息をつく。
「なんにせよ、警戒しないとね。渡くんはどうしたの? いつもだったら春野ちゃんの一大事なんだから速攻で駆けつけるじゃない。こんな時こそ男手が必要なのに……って、ああ、なんか忙しいんだっけ?」
「あ、そういえばそう言ってましたよね。一週間から二週間は忙しいって」



