「ああ、悪いけど俺みたいな〝そのへんのサラリーマン〟がニコニコペコペコへりくだるのは取引先にだけだから。どこの彩佳サンだか知らないけど……まぁ、あいつと知り合いって点と偉そうな態度を見る限りどうせどっかのご令嬢なんだろうけど。俺にとってはただの非常識女でしかないし好き勝手言わせてもらう」

そこで一度切った渡さんは、彩佳さんをじっと見据えた。

「春野をバカにしたこと、謝れよ。そしたら俺もあんたに言ったこと謝る」

渡さんが言いきると、その場がシンと静まり返った。
彩佳さんの後ろを走る車の走行音だけが響く中、沈黙が落ちる。

挑戦的な目をしたまま黙っている彩佳さんに、渡さんがまた口を開こうとしたところで、私が止めた。

「あの、彩佳さん。私になにか話があるんでしょうか」

待ち伏せしていたのだから、もっと他に話があるんじゃないだろうかと思い聞くと、彩佳さんは気持ちを切り替えるようひとつ息を吐いたあと、私を見た。

「最近、身の回りで変わったことは起きてない?」
「身の回り……?」

さっきまでとは打って変わって、真面目で落ち着いた眼差しを向けてくる彩佳さんに困惑する。
けれど、すぐに脅迫状のことが頭に浮かびハッとする。

「あの手紙と、なにか関係があるんですか?」

私の言葉に、彩佳さんは神妙な顔つきになり……それから、今度は呆れたようにひとつ息を漏らした。