婚約破棄されたので、森の奥で占いお宿をはじめます。

「知る人ぞ知る、この宿の売りだが……」

「売り……?」

「まさしく、占いだ。いや、占いだっただな」

「……ふ、ふうん」

「数年前までいた腕のよい占い師が去って以来、後継がなかなか表れず。それなら、むかし水晶という種を蒔いておいた〝セシリア〟が育つのを待とうと思っててな」


た、種を蒔いた!?
その言い方はどうなのか……

それに、〝売り〟って言うわりに、数年の間、占い師が不在だって……矛盾してない?


そもそも、王都にだって、人気のある有名な占い館があった。
それこそ、ここまで来て占ってもらう必要があるのかって思うけど……


「それが今、このタイミングだってわけだ。女将はともかく、占いの方は妥協するわけにはいかない」


いや、女将も妥協できないと思うけど……
女将って、言わばお店の顔でしょ?第一印象は大事だわ。


「ドリーは、なんでそこまで占いにこだわるの?」

「人助けが趣味だって言ったら、ライラは信じるか?」


信じないとは言わないけれど……


「沈んだ顔をしてここを訪ねて来た誰かが、占いで明るい顔をしてここを去っていく。そういう姿を見るのが好きなのさ」


そう話すドリーは、とても穏やかな表情をしているから、なんとなく納得してしまう。
ドリーは得体の知れない感じがするけれど、悪い人ではないんだと思う。